保育園で会うお母さんたちも、大切な人脈。

保育園で会うお母さんたちも、大切な人脈。

株式会社マイティブック代表取締役松井紀美子さん

マイティブック出版物子ども向けの絵本などを出版している、株式会社マイティブック。子どもが本を読む環境作りにも積極的に取り組む同社は、来年3月に子どもの本の機関誌『Bookbird(ブックバード)日本版』を創刊予定だ。子育てをしながら一人で出版社を立ち上げたという、バイタリティ溢れる同社代表取締役・松井紀美子さんに、日本の絵本出版界を取り巻く現状や、効率的かつ有効的な人脈作り・情報収集の仕方について伺った。

松井紀美子さんのトレンドリング
株式会社マイティブック 代表取締役 松井 紀美子さん
高校卒業までシンガポールに滞在。国際バカロレアで西南学院大学に帰国子女1号として入学。卒業後、出版社に約15年勤務したのち、2004年に株式会社マイティブックを設立。同社は、オリジナルの絵本や子育てコミュニティ誌『ママチャリン』などを発行する出版社。

― このたび松井さんをご紹介いただいた、野村不動産アーバンネット株式会社の林陽平さんとの出会いについて教えてください。

当社は絵本の出版社ですが、出版業以外にも雑誌の取材やコーディネーションなどを請け負う、編集プロダクション業も行っています。数年前、野村不動産アーバンネット株式会社の営業マニュアルを制作するお仕事のご依頼をいただいたのが、林さんとの最初の出会いです。その後、当社が子育てコミュニティ誌『ママチャリン』を立ち上げたときに、「子どもが絵本を読む環境づくりをサポートしたい」という媒体の趣旨に賛同いただき、同誌を野村不動産アーバンネットの全店舗に設置していただけることになりました。

― 松井さんが、絵本の出版社を設立された経緯をお聞かせください。

出版社に勤めていたころに子どもが生まれ、いろいろと考えるようになったんです――自分は何のために働いているのか、とか。そして、子ども向けの絵本や雑誌を手がけてみたいと思うようになりました。転職することも考えましたが、育児と両立しなくてはならなかったので、自分で会社を作ることにしました。この事務所と出会えたことも大きかったです。経験豊富なフリーのライターや編集者が近くにいて、会社が異なっても困ったときには相談に乗ってもらえるという心強さがありました。

― 人脈にも恵まれたのですね。では日頃、人脈作りや情報収集はどのようにされているのですか?

私には子どもがいて時間的な制約があるので、特に起業家セミナーや異業種交流会などに参加したことはありません。とはいえ、編集の仕事は人脈が大切です。新しい企画を考えるときに、自分の世界だけでは枯渇してしまいますし、仕事の幅も限られます。そのため、自分のできる範囲で効率的に人と出会うように努力しました。たとえば、保育園の送り迎えのときに、お母さんたちが手にしている会社の紙袋を見て声をかけたりとか(笑)。実際、フリーのイラストレーターやライターをされているお母さんと知り合い、一緒にお仕事をさせていただいたこともあります。当然、異業種の方とも出会えますし、情報収集もできます。このように人脈は無理に作ろうとせず、身の回りから少しずつ広げるようにしています。

情報収集に関しては、本から得ることが多いですね。特にマーケティングに興味があるので、そのジャンルの本はかなり読みました。『アマゾンのロングテールは、二度笑う―「50年勝ち残る会社」をつくる8つの戦略』(鈴木貴博著・講談社刊)は、起業したばかりのころに読んだこともあり、とても参考になりました。インターネットに関しては、情報ソースが不確かなのであまり活用しません。不特定多数のあいまいな情報よりも、信頼できる著者の本から得た情報のほうがトレンドを掴めるからです。昔の出版業は、トレンドを見つけて発信していればよかったのですが、今は個人もブログなどで情報を発信する時代ですから、私たちマスコミの人間は、トレンドを「作って」いかなければなりません。とりわけ子育て環境は変化が激しいので、海外からの情報を積極的に取り入れ、どうすれば日本のマーケットに受け入れられるかを考えるようにしています。

Bookbird日本語版

― そのようにして海外から得た情報は、どのように活かされているのですか?

たとえば当社は、来年3月に『Bookbird(ブックバード)日本版』を創刊する予定です。『Bookbird』は、スイスに本部をもつIBBY(国際児童図書評議会)が発行する、子どもの本に関する情報を集めた機関誌で、世界の児童文学研究者や図書館関係者、教育関係者などから高く評価されています。日本ではまだIBBYという団体自体あまり知られていませんが、私は美智子様が著した『橋をかける―子供時代の読書の思い出』(すえもりブックス刊)という本を読んで同団体のことを知り、起業と同時にIBBYの日本支部であるJBBY(日本国際児童図書評議会)に加入しました。そしてこのたび、『Bookbird』を日本語に翻訳して当社から発行することになりました。

『Bookbird日本版』を通して、子ども向けの本の世界的な動向を日本に紹介したいと考えています。海外において、絵本は子どもに思想を植えつける役割を果たしますが、そのような考え方は日本ではまだ一般的ではありません。でも、絵本というのは、人が一緒に生きていくために学ぶべき最初の教科書だと思うんです。子どもが最初に手に取って学ぶ物は、テレビやパソコンなどではなく、本であってほしいというのが個人的な想いです。

― 現在、注目していること、今後取り組んでいきたいことは何ですか?

会社を設立して5年たち、原価計算からプロモーションまですべて経験して最近思うのは、出版業は農業に似ているということです。農業は国から保護されてきたこともあり、農家の方たちは自分たちが作ったものをどのように売るのかを考えなくても、JAがその役割を担ってくれていました。ところが近年、ネット販売などが普及し、農家の方たちが戸惑っているのが現状です。出版業も同様で、販売チャネルが多様化し書店に並べれば売れるというわけにはいかなくなりました。もう少しマーケティングの視点を持つ必要があると考えています。また、住宅環境も変化し、昔のように家に全集を並べるようなスペースはありません。読み終わった本を古本屋で売るために、できるだけ汚さないように読むという話も耳にします。そういった状況を考えると、読み終わった本をデジタル化し、記憶として残せるような商品があってもいいのではないかと思っています。また、絵本は子どものための本ですが、親に伝えたいメッセージもたくさん込められています。絵本では伝えきれない情報を紹介するWebサイトを作りたいというアイデアもあります。

そのほか、オンデマンド印刷にも注目しています。正直なところ、オンデマンド印刷はオフセット印刷に比べて「少部数向けの簡易的な印刷方法」というイメージがあったのですが、JBBYの冊子を印刷したときに、ヒューレット・パッカード社のオンデマンド印刷のクオリティの高さに驚いたんです。これからは大量に本を印刷する時代ではないので、低コストで少部数を刷れるオンデマンド印刷は、当社のような小規模な出版社にとって強い味方になると思います。

― 次回、登場予定の酒井慶太郎さんとの出会いや、その後のお付き合いについて教えてください。

木曽を拠点に、漆器や木のおもちゃなどを製造している酒井産業株式会社の常務取締役・執行役員兼営業部長の酒井慶太郎さんとは、生協さんのお仕事でお会いしたのがきっかけです。その後、『ママチャリン』の取材でもお会いし、お食事をご一緒するなど、親しくさせてもらうようになりました。お互いに「木」と「紙」という、手触りのある素材を扱う者同士なので、お話を伺うと参考になることが多いですね。