多くの人に訴えるには、ファッション性も必要。

多くの人に訴えるには、ファッション性も必要。

一般社団法人more trees事務局長水谷 伸吉さん

音楽家・坂本龍一氏をはじめとする5名の発起人と、各界から100名以上の賛同人を得て設立されたmore trees。設立3年目を迎え、国内外で森林再生の活動に務めるほか、各企業とのコラボレーションも活発に行っている。今回は、more treesの事務局長・水谷伸吉さんに、法人設立に参加するまでの経緯、現在の活動内容、日頃の情報収集やコミュニケーションの仕方などについて伺った。

水谷伸吉さんのトレンドリング
一般社団法人more trees 事務局長 水谷 伸吉さん(32歳)
慶応大学卒業後、株式会社クボタに入社し、環境プラント部門に従事。その後、植林団体でインドネシアの熱帯雨林再生に携わる。2007年より、音楽家・坂本龍一氏が代表を務めるmore treesの事務局長を務めている。

― このたび水谷さんをご紹介くださった、ウィルライフ株式会社の増田進弘さんとの出会いについて教えてください。

more trees増田さんとは今から5年ほど前、当時私が勤めていた植林団体の活動を通じて知り合いました。そのころ私は、インドネシアのボルネオ島の熱帯雨林再生に携わっていたのですが、そこは、増田さんが当時扱っていた棺に付いている植林寄付の場所でもあったんです。一緒にインドネシアに行く機会こそありませんでしたが、同じ森を見てきたので、森の再生に関しては共通の想いがあります。

― 森林問題に関心を持つようになったきっかけと、more trees設立に参加した経緯をお聞かせください。

きっかけは、小学校6年生のときに塾の授業で環境問題について学んだことです。子ども心に強い危機感を感じたのを覚えています。その後、大学4年のとき、熱帯雨林を見に行きたいと思い、NGOの植林スタディツアーに参加して、ボルネオ島の森林伐採の現場を実際に目にしました。卒業後はメーカーに就職したものの、ボルネオ島での記憶がずっと心に残っていて、やはり森林再生に関わりたいと思い、植林団体に転職しました。

植林団体にいたころ、渋谷の地域通貨「アースデイマネー」の活動に関わる機会があり、毎日アースデイ株式会社の池田正昭さんと出会いました。池田さんはそのころ、現在当法人の代表である坂本龍一から、「more trees」という活動を始める相談を受けていて、私は森林に関する情報を池田さんに提供していたんです。そのうち、「坂本さんと直接会ってみない?」と言われ、初めて会ったときに、森林再生やmore treesの可能性について自分の考えを伝えたんです。そしたら後日、坂本本人から「more treesの事務局をやらないか」と声をかけてもらい、参加することになりました。

― more treesでは、具体的にどのような活動をしているのですか?

水谷伸吉さん端的に言えば、その名の通り「もっと森を増やすこと」です。森林減少は、地球上で1秒間にサッカー場1面分の森が減っているという深刻な状況です。一方で、日本は国土の約7割が森林で、世界でも有数の森林国なのに、植えられっぱなしで適切に管理されていません。そのため、私たちは海外では植林活動をしていますが、国内では新たに木を植えるのではなく、今ある森の質を高め、豊かな森を増やしていくために積極的な間伐(木の生長に合わせて適切に間引くこと)を行っています。つまり、more treesという名称ではありますが、国内では木を切って使っているんです。現在、進行中の森林再生プロジェクトは、海外ではフィリイピンに1カ所、国内では北海道、長野、そして高知に2カ所の計4カ所です。今後、新たに九州の2カ所でも開始される予定です。

そのほか、間伐材を使ったアイテムも扱っています(http://www.more-trees.org/item/items.html)。これまでにも国産材の使用を促すキャンペーンは多数ありましたが、デザインや機能性に疑問を感じるものも多くありました。more treesでは、製品のデザインや機能性、コンセプト、ストーリーも大切にしています。都市の人たちが間伐材を利用することで森が再生すれば、林業が復活し、過疎高齢化に悩む地域も元気になる。切った木を国内で加工すれば木工業も潤います。このような形で、地方と都市がつながっていければいいと考えています。グッズに使える間伐材の量は決して多くありませんが、都市で生活する人たちにもまずは小さなところから、国産材の意義に気づいてもらえればと思います。

― 今後、どのようなことに注力していきたいですか?

水谷伸吉さん地元の林業家の方たちとのコンタクトを大切にしていますが、東京に居を構えている以上は、都市側を軸足にして地域との橋渡し役を務めたいと考えています。低酸素社会への舵切りをどのように進めるのか。それは、いかに都市部での需要を喚起し、どこまで企業の気運を高められるかにかかっています。これまでにも、全日空とのタイアップで、フライトで出るCO2をカーボンオフセットできる仕組みを作ったり、「デザインタイドトーキョー2009」のサテライト会場として、伊勢丹新宿店で鳩時計を販売したり、長野県に「ルイ・ヴィトンの森」を誕生させるなど、各企業とのコラボレーションを実施してきました。今後も積極的に行っていきたいですね。

また、私たちが目指す「自然エネルギーに依拠する社会」にするために、木質バイオマスを有効活用できるようになればいいと考えています。原発に依存するのは決していいとは言えませんが、すでに少なからず依存してしまっている以上、急にやめろとは言えません。more treesとしては、北風ではなく太陽になり――規制するのではなく、みんなが自然エネルギーを使いたくなるようなアプローチをしていければと考えています。たとえば、間伐材の木屑や端材を薪ストーブやペレットストーブに利用するなどして、昔ながらの生活を、便利で快適に現代らしくアレンジした生活が広まればいいと思っています。

― 日頃、どのように人脈づくりや情報収集をされているのですか?

おかげさまで、林業家や企業の方、クリエイターの方など、お仕事を通じたお付き合いが緩やかに広がっているので、特に意識して人脈を増やそうとはしていません。個人的には「飲みニュケーション」を大切にしています。地方や海外の方とお会いするとき、東京から来た私は“よそ者”です。最初はよそ行きの対応をされることもありますが、一緒にお酒を飲むうちに、だんだん意思の疎通が図れるようになるからです。

情報収集に関しては、農学や林学などの専門書を読んだり、インターネットで最新の情報を収集するようにしています。ツールでは、「google アラート」を利用しています。気になるキーワードを登録しておくと、関連するニュースなどをメールで配信してくれるので、とても便利ですよ。

そのほか、カルチャー全般にもアンテナを張るようにしています。坂本も日頃から言っているのですが、「エコはファッションでいい」と思うんです。「森が減っています」と誰かがただ呼びかけるだけではなかなか伝わりにくいですが、音楽イベントでアーティストが呼びかけたり、スポーツでドネーション(寄付)の付いたチケットを販売すると、多くの人に訴えることができます。裾野を広げるためにもファッションは大切だと思うので、森林以外のカルチャーの分野も参考にしています。

― 次回、登場予定の深津章さんとの出会いや、その後のお付き合いについて教えてください。

水谷伸吉さんコピーライター兼プランナーの深津章さんとは、港区主催の「みなと森と水会議」の記念すべき第1回目を一緒にディレクションして以来のお付き合いです。間伐材の棺〈エコフィン〉のPRや、more treesの写真展などにも深く関わっていただいています。港区立エコプラザの企画にも参加されていて、若手ながら非常に優秀な方です。