悩んだときに相談できるメンターは、貴重な存在。

悩んだときに相談できるメンターは、貴重な存在。

こびとのくつ株式会社代表取締役工藤美樹さん

街でよく見かけるポスターなどのグラフィック広告に施される画像処理のことを「レタッチ」という。大塚製薬「カロリーメイト」、サントリー「角」など、その技術力の高さから数々の有名案件を手がける、こびとのくつ株式会社。今回は、自身もレタッチャーでありながら経営者でもある、同社代表取締役・工藤美樹さんに、日頃の情報収集の仕方や、最近注力していることについて伺った。

工藤美樹さんのトレンドリング
こびとのくつ株式会社 代表取締役 工藤 美樹さん(36歳)
7歳より油絵・水彩・陶芸・書道を学び、一時漆の人間国宝に弟子入り。その後、株式会社アマナに入社し、レタッチャーという職業を知る。退職後は個人事業としてレタッチを始め、2005年、こびとのくつ株式会社を設立、現在に至る。

―このたび工藤さんをご紹介くださった、株式会社ライトニングの佐藤武司さんとの出会いについて教えてください。

佐藤さんとは、ある雑誌社の方の紹介で知り合いました。お話してみると、共通の知人がいるなどの間接的なつながりがあって、しかも同年齢で同じ経営者という共通点もありました。以来、ときどきお会いしてビジネスや時代の変化について情報交換をさせていただいています。俯瞰して時代の動向を見られている方なので、これからも注目の経営者だと思います。

― 工藤さんは、もともと個人事業から始められたそうですね。

「VOGUE NIPPON 2010年6月号  CHANEL COSMETIC PROMOTION」<br />
Photographer SHUN+HIDEKI(FEMME)<br />
はい。私は子どものころから、油絵、水彩、陶芸、書道を習っていて、十代の後半には漆の人間国宝に弟子入りしていました。ですが、そのうち基準の曖昧なアートの世界よりも、自分の右腕で稼いでみたいと考えるようになりました。そんなときMacの存在を知り、早速購入して学校に通い始めました。そのとき学校で講師をされていた方の会社だった、株式会社アマナに入社しました。そこでレタッチャーという仕事があることを知って、これこそがまさに天職だ、と。その後、父の看病のため同社を退社することになり、寝室の片隅にノートブックを置いて、個人事業としてレタッチの仕事を始めたのが、「こびとのくつ」の始まりです。お仕事が増えるにつれ、自宅のほとんどが仕事用のスペースになってしまったので、現在の場所にオフィスを構え、2005年に法人化しました。時代的にもMacが普及し、何億円もする機材を購入しなくても作業ができるようになっていたので、それも独立の追い風となりました。
以来、当社は営業部門を持たずに、口コミでいただいたお仕事だけで事業を拡大してきました。当社は技術がウリの会社なので、ベストな仕事さえできれば、おのずと次のお客様をご紹介いただけます。その代わり、今立っているバッターボックスでヒットを打てなければ、次の打席はまわってこないので、つねに真剣勝負です。当社に求められているのは、言われた通りにモノを作ることではなく、プロフェッショナルとしてのプラスアルファを提供することです。そのため、撮影現場にも出向きますし、技術的な要望もはっきりとお伝えします。そういう意味では、おとなしい会社ではないかもしれませんね。

― 最近は、どのようなことに注力されているのですか?

工藤美樹さん当社の本流であるマスメディアのレタッチに注力しているのはもちろんですが、最近ではwebや動画の分野でも当社の技術を活かせる可能性があると感じています。正直に言えば、紙からwebへの移行が始まったときは、2Dのレタッチだけでやっていくことに先が見えなくなり、閉塞感を感じていました。ポスターなどの紙媒体はTB(テラバイト)の世界ですが、webはkB(キロバイト)の世界なので、当社の技術を活かす場が減ってしまうという危機感があったんです。そんなとき、ちょうどiPadが発売され、web上でも画像が大きく表示できるようになりました。当社は肌の修正ひとつにしても、塗りつぶしてしまうのではなく、毛穴やきめを残してシミやシワだけを取り除く技術を持っています。iPadの普及によって、そういった技術の必要性も高くなるのではないでしょうか。近い将来には2D、3D、動画の境界がなくなり、100万円以下のデスクトップマシンですべてのクリエイティブが完成する時代が来ます。そのため、当社も3Dとムービーのソフトを導入し、来る時代に向けて技術を磨いています。

― 日頃、どのように情報収集をされていますか?

最近は、インターネットで情報収集をすることが多いですね。あとは、地味なようで意外に効果的なのは、社内での情報共有です。当社では、社員全員がひとつの空間に机を並べて働くことに決めています。そうすると、作業中の会話から新しい情報が出てきて、ナレッジとして社内に定着するからです。レタッチの世界は、技術の進歩やソフトのバージョンアップがめまぐるしいので、社員が各自の情報ソースから得た情報をみんなに共有することで、情報収集が効率的にできるだけでなく、互いに切磋琢磨して技術力を磨くようにもなります。これはフリーランスの場合にはなかなか叶わないことだと思います。
また、先ほども言いましたが、iPadに――特にiPadが起こす世の中のビジネスモデルの変化に――注目しています。iPadのことを大きなiPhoneだと思っている人も多いようですが、使用するシチュエーションがまったく違います。普及率はまだそれほどでもありませんが、軽量化されたり、価格が見直されたり、アプリの幅が広がってくると、日本のさまざまなものにも変革が起きると思います。ビジネスとして成立するのかどうかはまだ不確定ですが、iPadにしかできないコンテンツが増えてくれば面白いと思いながら、注目しています。

そのほか、ビジネス書を読むことも多いですね。20代のころからビジネス書が好きで、ドラッカーやマキャベリなど、かなりの量の本を読んできました。日中はレタッチの作業をしていることが多いので、手を動かしながら、オーディオブックでドラッカーを聞いたりして知識を取り入れるようにしています。ただ、ビジネス書に書いてあることをそのまま実践しようとしても、当社のような中小企業ではなかなかうまくいきません。そういうときは、先輩経営者に相談してアドバイスをいただくようにしています。自分ひとりだけで学べることは限られていますし、膨大な時間もかかってしまいます。さまざまな経験を積まれた先輩方は、私にとってのメンターで貴重な存在です。

― では、日頃の人脈づくりはどのようにされていますか?

工藤美樹さん自分から積極的に人脈づくりをすることはありません。人付き合いというのは、相手から貰うだけでなく、自分もその人に与えるものがなければ、対等な関係とは言えないと思うからです。どちらかが貰うばかりでは“人脈”とは呼べないし、相手の方にも失礼になってしまうので、“ただお近づきになりたい”という理由だけで人脈を作ろうとはしていません。ですから、お付き合いのある方たちは、たいていお仕事を通じて知り合うことが多く、それぞれの世界でプロフェッショナルな方ばかりです。

ただ、最近力を入れているのは、レタッチ業界の横のつながりを強化することです。この業界には内にこもる職人気質な方が多いので、ともすると孤立してしまうことがあります。私は幸い、「技術者兼経営者」としていろいろな方々とのつながりがあるので、同世代のレタッチャーをまとめて横のつながりを作る役割を担えればと思っています。

― 次回、登場予定の高田裕子さんとの出会いや、その後のお付き合いについて教えてください。

株式会社カラーズのの代表取締役・高田裕子さんとは、私が以前、『現場力』『見える化』などの著作で有名な遠藤功氏のビジネススクールに通っていたときに、そのスクールの運営を高田さんがされていたことがきっかけで知り合いました。経営戦略からコミュニケーション講座、カラーコーディネーションまで、幅広く講座を主催されています。とても美しい方で、ワインへの造詣も深く、働く女性として尊敬しているだけでなく、同性としても憧れの存在です。